紙の知識

5.紙の原料

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紙の原料は木をほぐして出る繊維を集めたパルプと呼ばれるものです。針葉樹、広葉樹から採取されるフレッシュパルプと、一度紙として使用され、再びパルプ化した古紙パルプの2種類があります。針葉樹は繊維が長いので、紙の強度が高く、広葉樹は繊維が短いので、平滑性がよくなります。古紙パルプは紙の強度のしなやかさも低く、再生される度に繊維は弱まり、再生できなくなります。

1)木材

■木材の種類

紙の原料である製紙用チップは、家の柱などの建築材や合板材、家具材などの廃材、解体材などから作られています。集荷される木材は国や地域によって異なりますが、日本で一般的なものはスギやヒノキです。海外からはユーカリ、アカシア、ダグラスファー、ラジアータパインなどが製紙用チップとして輸入されています。様々な種類の木材が製紙原料として使用されていますが、木材によって繊維の長さ、比重、パルプ化のしやすさ、出来上がりの強度が異なるので、紙の品質を一定なものとするためには、複数の種類の木材を適切に混ぜて使用する工夫が必要となります。特に針葉樹と広葉樹とでは繊維の長さが大きく異なるため、別々にパルプにして、それぞれの特徴を生かした用途に使用されています。広葉樹のユーカリは世界に600種類以上あるといわれますが、製紙用の代表的な種類は、「ユーカリ・グロブラス」「ユーカリ・ナイテンス」「ユーカリ・グランディス」が挙げられます。日本の針葉樹の代表であるスギは比重が軽く、またパルプ化しづらいため原料として使いづらく、使用時には配合の割合を工夫することが必要です。

■人工林と天然林

森林の再生方法によって、森林は「人工林」と「天然林」とに分けられます。

人工林は、苗畑で生産した苗木の植栽、種子の直播、挿し木などの人工的な再生方法によって作られた森林のことです。人工林は主に伐採をして経済的に利用するため(経済林)に木を育成しますが、環境維持のために造成することもあります。また、経済林であっても、土砂災害防止・水資源維持のために伐採方法や伐採量が制限される場合があります。

天然林は、自然状態での発芽や萌芽によってできた森林(天然更新)のことを指します。豊かな生体保護をしている森林、国土保全や水源涵養(かんよう)のための森林、保健・レクリエーションのための森林、木材を生産する経済林など、多様な公的機能を合わせ持ち、様々な役割が期待されています。

紙の供給を維持するためには、製紙用パルプの増産が必要となり、紙の需要増に対応するためには、原料の調達量を増やすことが必要となります。そのため、ケナフなどの非木材繊維の活用、新規植林で適正な森林管理を行い供給の増加を図ったりと、様々な工夫で原料の供給増加が図られています。しかし、人工林の問題点として、単一樹種による植林があります。産業植林のために造成地として天然林が切り開かれると、生物多様性は失われてしまいます。世界で行われている全ての人工林(経済林)が、植林によって生物多様性が失われているわけではありませんが、少なくとも日本の製紙会社による海外植林などは、自然界に対して最大限の配慮を払いながら管理されています。

■植林研究

地球上の環境は多岐にわたるため、植林には決まった方法がなく、それぞれの場所にふさわしい方法で行われています。その自然環境に適した木の種類選択、適正な時期の伐採、その後改めて植栽するリサイクルなどが重要なポイントです。日本の林業は、製材用として主に針葉樹を栽培してきました。山深い過酷労働、花粉症問題などネガティブなイメージもありますが、長い間に培われた植林技術は、海外の様々な地域で環境特性を活かした植林事業を支援しています。また、樹木は将来的には紙以外の工業化工品や燃料として利用されることも期待されています。いつかは枯渇する化学資源から、植林すれば再生できる循環型資源が持続可能な社会に不可欠だといえるでしょう。

2)古紙

■古紙について

紙は古くから漉き返しという形で再利用されてきました。明治時代に近代的な製紙技術が日本に導入されてから、古紙の利用は板紙の分野から始まりました。複数の紙層で作られる板紙は、異物の混入の影響の少ない中層や裏層を中心に古紙が使いやすいので、現在では板紙原料全体の90%以上が古紙となっています。一方、紙分野での古紙の利用は、印刷所や紙加工工場から出る印刷インキの付いていない古紙を選んで使用する方法で始まりました。インキの付いていない産業古紙は量が少ないため、限りがあったので、1950年代後半から脱墨(インクを取り除く)設備が導入され、印刷された古紙での再利用が可能となりました。

紙・板紙の使用料はGDP(国内総生産)に比例すると言われ、日本でもその需要に応えるため、原料や燃料をどのように確保するかが課題となりました。国内資源に乏しい日本が選択したのは、板紙を中心とした古紙の再利用でした。その後、オイルショック等を契機に古紙の新聞用紙への利用が進み、1980年代後半以降は印刷用紙、コピー用紙の分野にも古紙パルプの配合が可能となりました。

今後、古紙利用率が90%を超える板紙でも古紙の再利用は、大きな向上が望めないため、印刷・情報用紙での再利用の取り組みが必要と言えます。

■紙のリサイクル

日本での古紙利用は江戸時代にまでさかのぼる古紙回収をはじめとする長い時間をかけて作り上げられてきた仕組みです。

古紙は、新聞古紙は新聞紙、段ボール古紙は段ボール、上質系古紙は印刷用紙・家庭用紙など、同じ用途にリサイクルされる割合は高いと言えます。最近ではインキ除去、漂白技術が開発・導入され、家庭からの回収ルートも定着し、数量・品質ともに安定している新聞古紙が印刷・情報用紙の原料となる上質系古紙原料に使用できるようになっています。また、古紙利用は、可燃ごみとして捨てられていたお菓子の箱やコピー用紙などを「雑紙」として回収し、板紙原料として再利用する取り組みも行われています。

原料確保のための古紙利用は、現在環境問題などにも後押しされて利用率が高まっています。

■古紙流通

古紙は家庭、オフィス、店舗、印刷・製本工場、新聞社など様々な所で発生します。家庭からの古紙は、集団回収・古紙回収車などを経由して古紙卸売業者の集積所へ集められます。オフィス・印刷所などの事業系の古紙はそれぞれの専門回収業者が回収し集積所に集められます。集積所へ集められた古紙は、利用先の製紙会社の用途に合わせて選別され、1トンの塊にして納入されます。

■牛乳パックの再利用

牛乳パックなどは、中のパルプが上質なのでフイルムを剥がせば優れた製紙原料としてリサイクルされています。使用済み紙パック古紙の80%は家庭から回収されるもので、店頭回収・集団回収など民間の自主的な取り組みに支えられています。学校給食でも使用した紙パックの75%がリサイクルされています。紙パックの多くはトイレットペーパー・ティッシュに再利用され、また、板紙の表装用古紙パルプとしても欠くことのできない大切な原料です。

■世界の古紙事情

世界で一番古紙の消費量が高いのは中国で、その量は5000万トン以上です。アメリカは3000万トン以上、日本は約2000万トンとなっています。しかし、古紙利用率でみると台湾、韓国、イギリスが上位で、古紙回収率は韓国、オランダ、日本が上位となります。

アメリカは古紙回収率が50%以上であると同時に、世界最大の紙の生産国、輸出国です。古紙供給率の高いアメリカと、古紙消費の高い中国の古紙回収基盤整備などが、今後世界の紙生産に大きな影響を与えていくことが予想されます。

■今後のために

私たちは現在、豊富な紙のある生活に慣れ、紙は無限にあるものだと思い込んでいるのではないでしょうか。紙と永遠に付き合うために、紙原料を確保し、紙の安定供給のために森林の育成、省資源化、非木材パルプの使用、古紙再生化などを積極的に行っていく必要があります。

【紙の歴史年表】
西暦 世界の紙事情 時代 西暦 日本の紙事情
DC3000 メソポタミア/粘土板に文字を記録 スペース スペース スペース
エジプト/パピルス紙を発明
1300 中国/竹簡・木簡使用開始
200 ベルガモン/パーチメントを発明
176-141 中国/放馬灘紙出土(1986)
74-49 中国/懸泉紙(文字記載紙)
AD105 中国/蔡倫が蔡候紙を発明 飛鳥時代 日本で紙の製造が始まる
593 中国/木版印刷法の発明
300-600 韓国/製紙法が伝わる 610 高句麗の僧より製紙法伝来
751 中国→イスラムへ製紙法が伝わる 702 日本最古の紙・楮紙が作られる
793 ペルシャ/製紙工場ができる 奈良時代 770 百万塔陀羅尼が完成(麻紙)
スペース スペース 平安時代 斐紙(雁皮紙)・檀紙が作られる
960 エジプト/製紙工場ができる 806 紙屋院(製紙工場)が建設
1100 モロッコ/製紙工場ができる 927 延喜式制定(日本初製紙法)
1144 スペイン/製紙工場ができる 945-975 蜻蛉(かげろう)日記に陸奥(みちのく)紙の記載
1276 イタリア/製紙工場ができる 鎌倉時代 1192 春日版の印刷が始まる
1282 イタリア/ウォーターマーク(透し模様)発明 1340 奉書紙(越前)が出始める
1348 フランス/製紙工場ができる 室町時代 襖障子・明かり障子・雨傘用紙の需要増 紙の市や古紙を集めて売る商売が始まる
1390 ドイツ/製紙工場ができる
1445 ドイツ/グーテンベルグ活版印刷発明 1584 泉貨紙を開発
1670 オランダ/ホランダービーター発明 江戸時代 紙が各地でたくさん作られ、生活の中に紙が浸透する
1798 フランス/ベルトロー抄紙機を発明
1807 ドイツ/イリッヒがロジンサイズを発明 1613 日本使節団がヨーロッパを訪問、日本の良質な鼻紙に現地の人々が驚く
1809 イギリス/ディキンソンが円網抄紙機を発明
1820 イギリス/クロンプトンが蒸気乾燥シリンダーを発明 1777 新撰紙(かみ)鑑(かがみ)(日本諸国紙の種類・産地を明記の和紙の重要書)
1844 ドイツ/ケラーが砕木パルプを発明 1798 紙漉重宝記(和紙製紙技術書)が出版
1856 イギリス/ハーレイが段ボールを発明 アメリカ/ティルマンが亜硫酸パルプ(Ca法)を発明 1863 イギリス公使オールコックがロンドンで「大君の都」を出版し和紙を高評価
1872 スウェーデン/エクマンが亜硫酸パルプ(Mg法)を発明 明治時代 和紙から洋紙へ
1874 有恒社で機械抄きの紙(洋紙)の製造を開始
1884 スウェーデン/ダールがクラフトパルプを発明 1890 砕木パルプを製造
1926 アメリカ/ケミカルパルプ法を実用化 大正 昭和 平成 製紙産業の発展
1950 化学繊維(第2の紙)が登場 1925 クラフトパルプを製造
1962 合成紙(第3の紙)が登場 1964 海外から木材チップ輸入
1980 中性紙への関心が高まる 1973 第1次石油危機発生
スペース スペース 1979 第2次石油危機発生
2008 紙の生産量(世界) 1位/アメリカ 2位/中国 3位/日本 1990 紙の生産・消費大国となる
2000 紙生産量、世界第2位
2001 紙生産量、世界第3位
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