OPPという素材について

1.第一話 名前はもうある。「OPP」!

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よく見たことがあるものなのに、名前がわからないものってありませんか?

 我が家のもうすぐ一歳になる坊主くんはおんぶが大好きです。わたしはよく坊主くんをおんぶしていろいろなところに出掛けます。その時重宝するのが「アレ」。名前がわかりません。リュックサックのような肩ベルトがあって、坊主くんの背を覆う硬い布があって、足がニョキニョキ出せるように二つ穴が開いていて、そこに坊主くんをスポッとはめてリュックのように背負うと、安定する上にわたしは両手も自由になってとても便利な「アレ」。

 我が家では便宜的に「おんぶひも」と呼んでいます。しかし、いわゆるおんぶひもではありません。使い方によっては抱っこもできるので抱っこひもにもなるし。おんぶひも、抱っこひもと言っても、決してひもには見えないんです。先日、少し年配の方に「息子をおんぶひもで背負って、云々〜」と話したら、「あぁ、胸のところでバッテンにしてねぇ、云々〜」と昔風の本当にひも状のおんぶひもを想像され、話が食い違って微妙な空気が流れてしまいました。

 世の中にたくさんありますよね。よく見るものなのに名前がわからないもの。たとえば、本の背表紙の反対側でページがざざざざっと並んでいるように見える部分のことをなんというのだろう、と疑問に思ったことありませんか?「あの、本の背表紙の反対側、うーん、なんて言ったらいいかなぁ、ほら、辞書とかで『あ・か・さ・た・な』って書いてある部分!あそこを汚しちゃったんだよ、ちょっとお醤油こぼして。」と説明に難儀し、話し手と聞き手がイライラすることもあるでしょう。名前がわかっていて、その名前を会話者の双方が知っていればすぐに伝えられるのにと、もどかしくなることは頻繁にあります。

 ところが最近、ずっと名前がわからなかったものの名前がひょんなことからわかったという経験をしました。それは我が家で「おんぶひも」と呼ばれている「アレ」がデパートで売られていた時に入っていた透明な袋です。「アレ」はデパートのベビー用品売り場に利用説明書と販促用の写真とともに透明な袋に入れられていたのです。この商品を包むパリッとした透明の袋は大きさや形状が多種多様で、店頭でよく見かけます。「あの、商品とか入ってる、パリッとした透明の袋」……多くの人が了解可能な説明で、おそらく同じ袋を想像すると思います。最近、ママ友からこんな話を聞きました。「あの、商品とか入ってる、パリッとした透明の袋、あるじゃない。うちの娘があの袋をカサコサカサコソ擦り合わせた音が好きなのよ。ワーンと泣いちゃったら、すかさずあの袋をカサコソやるわけ。そうするとピタッと泣き止むのよ。だからあの袋、捨てられないのよね。」すぐに状況が頭の中に浮かんできました。赤ちゃんをあやすために使っているその袋、わたしのイメージで正しいはずです。ただ、「あの、商品とか入ってる、パリッとした透明の袋」では、少しスマートさに欠ける表現だな、とは思っていました。

その透明な袋は「OPP袋」と言うそうです。よく見かけますよね。この「OPP袋」に入っていると、清潔な感じがしてとてもいいです。特に赤ちゃんの使うものは衛生面が気になります。実は「おんぶひも」を買ったのは、坊主くんがまだおなかの中、妊娠6か月の時でした。ですから、当然それからしばらくは「おんぶひも」は使わなかったので、その間もずっと「OPP袋」に入っていたわけです。坊主くんが生まれてからおんぶし始めるまでの一年弱もの間、「おんぶひも」はずっと「OPP袋」に入っていたので全くホコリをかぶらずに済みました。そう、「OPP袋」は保存力があるのです。

 「あの、商品とか入ってる、パリッとした透明の袋」と説明することなく、「OPP袋」と名前を呼べるようになったのは、本当にひょんなことがきっかけでした。もうすぐ一歳になる坊主くん、離乳食も進んできてそろそろおっぱいをやめることも考えなければ、と思ったわたしは「おっぱいをやめること」についてインターネットで調べることにしました。検索エンジンで、「おっぱい」「やめる」のキーワードを入力するはずでした。しかし、入力方法が半角英数のままだったため、「opp」と入力してしまったのです。気づいたわたしは、BACK SPACEキーを押して「opp」を削除し、ひらがなが入力できるように設定を変えようとしました。ところがBACK SPACEキーを押すはずが、誤ってENTERキーを押してしまったのです。そこで出てきたのが「OPP袋」の文字でした。一期一会の偶然を大切にしよう、と思ったわけではありませんが、なんだこりゃ?なんの袋だ?という好奇心が湧いてきたのでしょう、少しドキドキしながら「OPP袋」のホームページを開いてみたのです。そして、「あの、商品とか入ってる、パリッとした透明の袋」は「OPP袋」だったのか、と齢三十にして、新たな知識を身につけたのです。身の回りに「OPP袋」のなんとたくさんあふれていることか。おんぶひもを始め、CDや文房具などいろいろな商品を包んでいる透明な袋も、DMに使われているセロハンの封筒も、「OPP袋」だということを知ったのです。

それもこれもわたしが当時「おっぱいをやめること」に「断乳」「卒乳」という名前がついていることを知らなかったお蔭です。

 やはり世の中、どんなものにも名前があるものですね。きっと「おんぶひも」にも名前があるのでしょう。思えば、「おんぶひも」を買ったあの時、私は坊主くんが元気に生まれてきてくれるか不安でたまりませんでした。買ったのに使うことがなかったらどうしようと思って、レジに持っていくのを躊躇しました。しかし、バーゲンでとても安かったので、結局買いました。家に帰って「OPP袋」に入った「おんぶひも」を見て、希望と不安で胸が張り裂けそうな気持ちになりました。あの時の気持ちにも名前はあるのでしょうか。

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